フレッシュインタビュー①田中さやか(品川区議会議員)「生活者のことを本当に考えた政治家を選ぼう」

 

夏の東京都議会議員選挙は、小池都政への注目度の高さから投票率アップが予想されていますが、若い世代に限ると楽観できません。民主党政権誕生前夜の2009年の選挙時は全体で54%だったものの、21歳から34歳の世代は3割を割り込みました。「政治と自分は関係ない」というかたが多いのでしょうが、子育て中の人なら待機児童の問題はまさに直面している政治課題です。

 

今回は、東京・生活者ネットワーク(以下、生活者ネット)所属の若手議員の一人である田中さやか(品川区議会議員、1982年生)にインタビュー。「20代の頃は、自分が政治家になるなんてまったく思わなかった」という田中の経験を通して、同世代の都民のみなさんに、選挙や政治にどう向き合うのか参考にしていただければと思います。(Your Voice 2020編集部)

——生活者ネットの新人議員は、会員出身者が大半ですが、田中さんは会員以外の出身。しかも初出馬を決めた時は2人目の子どもを妊娠中という話題性もあってマスコミでも注目されましたが、どういうきっかけで政治の道へ?

6年前まで、私もまさか自分が政治家になるなんて思ってもみませんでした。きっかけは東日本大震災と原発事故です。福島の原発が爆発する映像を見たのが衝撃的でした。当時上の子どもが2歳だったのですが、都内でも放射能が高く検出される「ホットスポット」のことが報じられ、子どもたちへの影響がとにかく心配でなりませんでした。

区役所に公園の砂場の放射線量を測ってほしいと電話をしたら、放射能のことに「詳しい」と聞かされていた担当者の言葉が「ホットスポットって何ですか?」。唖然としてしまい、怒りがおさまりませんでした。それから「放射能から子どもを守る会」などの勉強会や脱原発デモに参加したり、保育所や学校の給食の放射性物質を測定するように行政に求めたり、ママ友たちと一緒に子どもを守るために、必死で活動しました。

 

——行政や社会への「怒り」が原点だったのですね。

原発稼働の是非を問う原発都民投票条例を請求する運動のことを知って、私も署名集めをお手伝いしました。その時、生活者ネットの区議会議員だった井上八重子さんと出会いました。でも最初は、政治のことを本当に知らなかったので、区議会議員が「行政の仲間」のように勘違いをしていたんですよ。井上さんに区の対応のことで文句を言ったら、「子どもを区の幼稚園に入れてくれなくなっちゃうのかな」とドキドキしたこともありました(笑)。

もちろん、議員は行政の人ではなく、住民を代表して行政の問題点を指摘し、改善してもらうのが仕事です。井上さんは親身になって相談に応じてくださいました。そしたらある日、井上さんたちに呼ばれて「選挙に出ませんか?」と言われて驚きました。私は大学を出ているわけではないし、政治家になるには知識が足りないと思いましたし、なにより2人目を妊娠中でした。「とても無理ですよ」とお断りしたのです。

——そこからどうして出馬に至ったのですか

ものすごく説得されました。「私は無知ですから」と話しても「自分が無知だと言えることがすごい」と(笑)。それから何度も話を聞くうちに私自身も、人権や平和のこと、ヘイトスピーチの問題などを勉強して、政治状況が年々悪くなっていることに危機感を覚えました。やがて「自分のような子育て中の母親で、子どもを守る政治家がいたほうがいい」と思うようになりました。

 

——出産から2か月で初めての選挙。よく乗り切れましたね

ご近所へのごあいさつなど政治活動の時間と、家庭の時間との配分をきっちり決めて、活動中は他の方に子どもを預けてお世話をお願いしていました。実は私よりも先に生活者ネットでは赤ちゃんを連れて選挙に出た新人が過去にもいたそうです。

手前味噌で恐縮ですが、こういう温かいところが、女性候補者を地方議会に送り出してきた生活者ネットの良さだと思います。子育て中の母親の声を政治に反映するために当事者がいることが大事なのです。

 

——当選後の議会にどんな影響を与えられましたか

当選直後はまだ授乳期間。議会事務局も好意的で、議会の建物の中についたてを用意してもらうなどの協力をしていただきました。控室にベビーベッドが置いてあると、部屋を訪れたほかの会派の議員が「ここは雰囲気が違って落ち着くね」と目を細めていたのが印象的でした。

(同僚議員の吉田ゆみこと事務所で懇談)

あと、私が下の男の子を、地域の消防訓練に連れて行った時、子どもが喜んでいた光景を、自民党のベテランの男性議員のかたが見ていらして、同僚議員の吉田ゆみこに「僕らも意識を変えないといけない」とつぶやいていたそうです。公私の区別はきちんとした上でのことですが、男性議員にとっても子どもの姿が目に入ることで良い影響があるのではないでしょうか。

 

——当事者が議会に入ることで変わるきっかけを与えられますね

産後ケアの質問の際には、私が産んだばかりの体験を交えていたこともあって、区の担当課が真剣に対応していることが伝わってきました。その時に思ったのですが、若いママの声が政治に届くんですね。そのことを、もっと知ってもらえたらと思います。

 

——ただ、若い世代はなかなか投票に行きません。

政治家へのイメージがよくないことも大きいでしょうね。「悪いことをしている」とか「お金をいっぱいもらっている」といった感じで。私自身も当選してから、それまで政治の話をまったくしなかった男性の友人に「君がどれくらい給料をもらっているのか品川区議会の報酬をネットで調べたよ」って言われたことがありました。

「こんなにもらうんだ!」と驚かれもしたのですが(注・品川区では一般議員が61万円、議長等の役職手当は最大で約30万円プラス)、私は、「生活者ネットの議員は、議員報酬から『年間280万円プラス諸経費』をいただき、これらを除いた金額は市民の政治活動資金として使います」と説明しました。

 

——なぜ、そのようなルールが共有できたのですか

現状の選挙制度の下では、女性や若者は、普通は組織を持ちえませんし、経済的にも不利ですよね。勢い、政党の地方組織の党員や地元の利益を代表する人ばかりが政治家になってしまい、市民や生活者の声が届かなくなってしまいますよね。まさに、かつての私も一人の母親として「行政に声が届かない」と感じたものでしたから。

政策決定の場における女性の参画・多様性の確保が重要と考える生活者ネットは、選挙にエントリーする候補者が選挙資金を捻出するということはなく、基本は、市民のカンパ(寄付)とボランティア(知恵や力)で選挙を行うんですね。23年前に立ち上がった品川ネットの最初の選挙の時には、実際、200万円近い選挙資金が意思ある市民のカンパに拠ったのだそうです。

一方で、議員になって自らの対案を示すには、地域の課題を掘り起こしたり、おおぜいで調査・研究したりして、私たちのまちならではの政策立案へと高めていくことが重要になってくる。こうした市民の政治活動は、基本的には会員や市民が自発的に出したお金(寄付)に拠るべきであって、もちろん議員も、議員こそが報酬に応じた寄付を前提に政治活動に参加するひとりなんだ、と生活者ネットは考えたんですね。ですから1年生議員の私も、手弁当のボランティアや市民スタッフに支えられながら、あるいは生活者ネットが生み出した市民シンクタンクのメンバーに支えられながら、市民の代理人として議会に入っていくことができるんです。議員になった後も、最長でも3期12年で交代するローテーション制を採ることで議員を職業化・特権化しないように歯止めをかけてもいるんです。ですから、その友人には、「生活者ネットの活動スタイルそのものが市民の政治改革!」と。このことは声を大にして言いたい、と伝えたんです。

 

——ヨーロッパでは近年、海賊党などインターネットを駆使して政治参画を進める政党が旋風を巻き起こしています。その中には議員の地位を特権化しないようにローテーション制にしている取り組みも。生活者ネットはその考えを先取りしていたのですね。

確かに共通する部分もありそうですね。生活者ネットのローテーション制は30数年前、当時交流のあったドイツ緑の党がお手本と、聞いています。私のように子育て中の普通の母親が議員になる機会をいただけたのも、生活者ネットが、市民と政治の接点を増やすよう、ほかにない工夫を幾重にもしているからです。

 

——かつての田中さんのように、そもそも「政治や社会にどう関わるのかわからない」という若い人も多いですね。何かいいアドバイスは?

私自身は震災直後、放射能の問題についてツイッターなどSNSを活用して情報を取ったり、積極的に発信したりすることで、情報やほかの人からのアイデアが集まってきました。もちろん、間違った情報もたくさん流れているので、ほかの人の意見を見聞きしてチェックする必要はありますが、自分の頭で考え、イメージに流されないようになる一歩だと思います。

 

——夏の都議選は関心が高まりそうですが、劇場型の盛り上がりに終始しそうな心配もあります。20〜30代の都民の皆さんは、どう向き合えばいいのでしょうか。

「小池さんは良さそう」とか「あの党はダメかも」とか、イメージだけで決めるのはよくないことです。自分が投票する候補者に対し、「この人は本当に自分のことや生活のことを考えてくれているのか?」と問いかけながら、紙面を読み比べ政策を見極める、そして自分で考えることが大事ではないでしょうか。インターネットで調べるだけでも「この党は子どもの人権について理解がある、いいことを言っている」といったことが、よくわかります。

東京・生活者ネットワークは、食の安全や環境、情報公開、子育て・介護などは、どこの政党よりも早く提案して政策実現してきました。ホームページで「2017東京政策」や、「生活者ネットワークの東京構想」を掲載していますので、ぜひご覧いただきたいと思います。